木ネジを打つ前の下穴、ボルトや棒、ヒモなどを通すための穴などを、簡単にあけることができるのが電動ドリルです。DIYではネジ締め機能を兼ね備えた電動ドリルドライバーがよく使われますが、穴あけ加工が多い場合はドリル機能に特化したタイプを併用すると、より作業効率をアップできます。ここでは電動ドリルドライバーとの使い分けや機種選びのポイントについて解説します。
目次
1章:電動ドリルの特長
2章:電動ドリルドライバーとの違いは?
3章:電動ドリルの主な機能
4章:電動ドリルの種類
5章:電動ドリル、電動ドリルドライバーの選び方のポイント
6章:ドリルビットの種類
まとめ
1章:電動ドリルの特長
電動ドリルとは?
電動工具の中には、名称に「ドリル」とつくものが何種類もありますが、穴あけ作業に特化したタイプが一般的には電動ドリルと呼ばれています。専用といえる工具らしく構造はとてもシンプル。内蔵モーターの回転を歯車で減速して、ドリルビットと呼ばれる先端工具に伝え、素材に対して穴あけ加工が行えます。金属と木材に穴をあけられる一般的なモデルの他に、コンクリートやモルタル、石などの硬い素材に穴をあけられるモデル、またタッピング(雌ネジを切る作業)専用モデルや椎茸栽培のホダ木に穴をあける専用モデルのような変わり種もあります。DIYでは、穴あけとネジ締めの両方をスムーズに行える電動ドリルドライバーの陰に隠れがちですが、電動ドリルは硬い素材への穴あけや精度の高い穴あけを効率良く行いたいときに活躍してくれるスペシャリスト的な存在と言えます。
本来は穴あけ作業に特化した電動工具ですが、軸つきの砥石やバフといった先端工具を利用すると、研磨や研削などの作業にも使えます。
ドリルで穴をあける仕組みは?
そもそも「ドリル(drill)」とは錐(きり)も含めた穴をあける道具のことで、私たちが一般的にドリルと呼ぶ螺旋状に溝がついた工具は「ツイスト・ドリル」とも呼ばれます。なぜこの形状が採用されているかは、トンネル掘りを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。地面に穴をあけるためには、先頭で掘った土をどんどん後方へ運んで外へ排出しなければ、掘り進むことができません。材料に穴をあける場合も同じです。ドリルの先端で削り取った材料の切り屑は、ちょうど螺旋階段を登るように根元の方へと運ばれ、最終的に穴の外へと出されます。ドリルの螺旋状の溝は、まっすぐにあけたい穴の中で「削る」と「運び出す」を同時に行うために合理的な形状なのです。
電動ドリルはモーターの力を利用してこの作業を1分間に最高で4,000回転の高速で行えるようにし、穴あけ作業をサポートします。
2章:電動ドリルドライバーとの違いは?
電動ドリルドライバーはネジ締めが得意
電動ドリルドライバーは、ドライバーとドリルの機能をあわせ持った使い勝手の良い回転工具です。主に木材を使ってネジ締めと穴あけの作業をするDIYでは、この1台で両方の作業をこなせることがほとんど。木材の組み立てやリフォームでは木ネジを多用しますから、使いやすいドライバー機能がついた電動ドリルドライバーはとても重宝します。
ネジを締めつける力のことを「トルク」と言いますが、電動ドリルドライバーは、使用する木ネジの太さや長さ、木材の硬さや厚さに合わせてトルクを調整できるクラッチ機構を備えています。作業時に最適なトルクに調整しておけば、作業者がいちいち締め具合を意識しなくてもきれいに木ネジを締め込んでくれ、締めつけすぎによる木材の割れやネジの破損を防ぐことができます。穴あけを主とした工具の電動ドライバーには、クラッチのようなサポート機能がなく、ネジ締め作業にはあまり向きません。
電動ドリルは穴あけ向きの回転速度
木材にネジ用の下穴をあけたり、棒などを通す穴をあけたりする作業が中心で、たまに鋼板への穴あけをする程度なら、電動ドリルドライバーのドリル機能を使えば十分でしょう。しかし、鉄やコンクリートのような硬い材料に穴をあけようとすると、とても時間がかかり苦労します。その点、電動ドリルはモーターのパワーや回転数の違うバリエーションが揃っていて、素材や穴の大きさなど作業に適した機種を選ぶと、電動ドリルドライバーよりもずっと効率良く穴あけ作業ができます。コンクリートや石材への穴あけには、回転と振動を併用する振動ドリルやハンマードリルというモデルが選べます。
低速型が主流の電動ドリルドライバーは木工用にして、金工が多い場合は電動ドリル、コンクリートへの作業が必要になったら振動ドリルを追加して、それぞれを使い分けるのが理想的です。
3章:電動ドリルの主な機能
穴あけ能力と回転数
電動ドリルに求められるのは、正確かつスピーディに穴をあける性能です。こう書くと、ドリルの回転速度が速いほど高性能だと考えやすいのですが、そうではなく、あける穴の大きさによっては回転数が少ない低速の方が適しています。材料が木材でも金属でも、小さい穴をあける場合には、回転数が高い方が効率良く作業できます。ところが金工で10mmを超えるような穴をあける場合、回転が速すぎると材料に接するドリルの先端が滑って安定しません。
電気ドリルの仕様表を見ると、金工で6.5mm程度までの小さい穴に対応するモデルは4,000回転/分と高速型ですが、13mmに対応するモデルになると1,000回転/分以下の低速型になるなど、穴の大きさに合わせて回転数の設定が違います。スイッチを入れるとすぐに最大速度に達して回転し続ける単速度モデルと、レバーや切り替えスイッチで速度を変えられる変速モデルがあるので、機能を比べる際は回転数とともに変速の有無もチェックすると良いでしょう。
4章:電動ドリルの種類
金工、木工に使えるのは?
軸の回転だけで穴をあける単機能のタイプが一般的には「電気ドリル」と呼ばれ、金工と木工に対応しています。電動ドリルの性能は消費電力や回転数から判断できますが、大まかに言うとモーターの性能によってあけられる穴の大きさが決まり、本体のサイズや価格もそれに比例します。
小型のものはピストルタイプが主流ですが、大型になると押す力を加えやすいように後方にハンドルがついたタイプや補助ハンドルがついたタイプなどがあります。
コンクリートや石材に使えるのは?
ドリルの回転だけで穴をあける電気ドリルや電動ドリルドライバーで、コンクリートや石材のような硬い材料に穴をあけようとしても、ほんの少しずつしか削り取ることができず、なかなか掘り進めることができません。おそらく途中で挫折するでしょう。コンクリートやモルタル、石材などに穴をあける場合には、ドリルを回転させながら前後方向に細かい打撃を加え、先端で材料を砕きながら穴をあける「振動ドリル」という電動工具が必要です。
多くの振動ドリルには、ハンマーとドリルのマークがついたスイッチがついていて、「回転+打撃」のモードと「回転のみ」のモードを切り替えることができます。「回転のみ」のモードがついていれば、切り替えによって木材や金属への穴あけにも使うことができます。ちなみに陶器素材であるタイルは割れやすいので、打撃を加えずに回転だけで穴をあけます。
5章:電動ドリル、電動ドリルドライバーの選び方のポイント
最大穴あけ能力
電気ドリルと電動ドリルドライバーの製品仕様には、ドリル機能の性能がわかるように必ず「最大穴あけ能力」が記載されています。最大穴あけ能力とは、その機種であけることができる穴の直径を示した目安で、「金工:6.5mm、木工:9mm」のように書かれています。機種を選ぶときにはまず最大穴あけ能力が、自分の用途に十分かを確認しましょう。同時に回転数と消費電力(W)を確認すると、穴あけ能力が同じでも回転数が多いほどスピーディに作業ができますし、消費電力が大きいほどパワーがあることがわかります。
一般的に小さいモーターを搭載した小型モデルは、回転数が多い高速型で、小さい穴あけ作業に向いています。パワーの強い大きいモーターを搭載した中~大型モデルは、回転数が少ない低速型で、大きい穴あけを連続して行うような作業に向いています。
変速機能
電気ドリルには回転数の調整ができない単速度のモデルが多いですが、あける穴の大きさなど作業に合わせて速度を変えられるモデルもあります。「無断変速」機能は、トリガースイッチの引き加減で任意に速度を調整できるもので、仕様には「0~2,000回転/分」のように記載があります。また、切り替えスイッチを操作して、2段や4段などの決められた速度に切り替えられる変速モデルもあり、仕様には「500、600、1,100、1,300回転/分」のように記載があります。無段階変速のモデルを中間速度で回転を安定させて使うには慣れが必要ですが、割れやすい樹脂やタイルなど素材によって速度を変えることができ便利です。
チャックのタイプ
電気ドリルや電動ドリルドライバーは、チャックという3本爪の装置でドリルビットをつかんで固定します。電気ドリルでは、付属のT字キーで締めつけて丸軸のビットでもしっかりと固定できる「キーつきチャック」が主流でしたが、最近は手で回せてビットの着脱を簡単にできるキーレスチャックを採用するモデルが増えています。電動ドリルドライバーはほとんどのモデルがキーレスチャックを採用していますから、こちらを使い慣れている人やビットを頻繁に変える場合にはキーレスチャックの方が便利でしょう。
コード式か充電式か
電動ドリルドライバーは充電式のコードレスタイプが主流になっていますが、電気ドリルはまだまだコード式が主流です。連続した穴あけ作業がなければ、多少は重くなっても使う場所を選ばず、取り回しやすい充電式がオススメです。反対にひとつの作業台で連続して穴あけを行うような作業には、充電切れの心配やバッテリー交換のわずらわしさがないコード式がストレスなく使えます。
6章:ドリルビットの種類
穴あけ用の先端工具であるドリルビットには、木工用、金工用、コンクリート用などがあります。木工用と金工用のドリルビットは電気ドリルと電動ドリルドライバーで使用できますが、コンクリート用は振動ドリルでないと使用できないので注意しましょう。また、金工用は木材への穴あけなどにも使えますが、穴の縁が荒れたり、バリが出やすくなるので、きれいに仕上げるには素材に合わせて使い分けましょう。
木工用ビットの種類
- ● 木工用ドリルビット
- 木材専用の穴あけビットです。螺旋状にねじれた縁の部分に鋭い刃がついていて、木材に切り込みを入れながら穴をあけるので、穴の縁が荒れたり、バリが出たりしにくくきれいに仕上がります。直径、長さの違うさまざまなサイズの中から作業に適したものを選んで使いますが、最初は直径の違う数本がセットになったものを揃えておくと便利です。
- ● 木工用ホールソー
- 円形の鋸歯を回転させて、木材を切り抜くようにして貫通穴をあけられる先端工具です。ドリルビットのように深い穴はあけられませんが、大きさは直径200mm前後まであります。サイズの異なる刃を交換して使えるセットタイプをひとつ用意しておくと、DIYでは重宝します。
- ● 自由錐
- 回転の軸になるドリルに位置(幅)を移動できる刃がついた先端工具で、ドリルビットなどと違ってサイズを自由に決めて穴をあけることができます。
- ● 下穴用ビット
- 木ネジを締め込む際に、木材の割れを防ぐために下穴をあける加工に適したドリルビットです。先端になるほど細くなっているので、ネジが緩みにくい穴をあけることができます。
- ● ダボ用ビット
- 木材同士を接合するために使うダボや棚受けダボ、木ネジの頭を隠す埋木などの穴を、同じ直径、同じ深さであけるための専用ビットです。使用するダボなどの直径に合わせたサイズを選びます。
- ● ボアビット
- 通常のドリルビットより大きい穴をあけるときに使います。貫通しない浅い止め穴をあける加工に適しています。
鉄工用ビットの種類
- ● 金工用ドリルビット
- 金属に穴をあけるために使用するもっとも一般的なドリルビットです。鉄、アルミ、真鍮などの金属の他、仕上げにこだわらなければ木材やプラスチックへの穴あけにも使うことができます。木工用と同じく、最初はサイズ違いが数本同梱されたセット品を購入すると便利です。金工用ドリルビットは一般的にステンレスには非対応です。ステンレスへの穴あけには、「ステンレス用」と記載のある製品を選んでください。
- ● ホールソー
- 木工用と同じく、大きい穴をあけるときに使う、円形の鋸歯を持つ先端工具の金工用です。
- ● ステップドリル
- 先端になるほど細くなるタケノコのような円錐状をしていて、途中に複数の段があるドリルです。薄い鋼板やプラスチック板に深く入れるほど穴は大きくなり、通常はドリルビットであけた穴を希望の大きさまで広げるようにして使います。穴のバリ取りにも使えて便利です。
コンクリート用ビット
振動ドリルでコンクリートに穴をあける場合、先端や肩に超硬合金チップがついた「コンクリート用ドリルビット」を使います。鉄工用のドリルビットでは、コンクリートに穴をあけることはできないので注意してください。
まとめ
穴をあけるときに使う電動工具には、DIYではお馴染みの電動ドリルドライバーの他に、電気ドリルや振動ドリルなどの種類があることがお分かりいただけたでしょう。それぞれに特長があり、穴あけ対象の素材によってこれらを使い分けると、楽に加工することができます。もし電動ドリルドライバーのスピードやパワーが物足りないと感じたら、他のドリルを試してみてはいかがでしょうか。作業に最適な電動工具を使うことも、DIYを楽しむコツです。